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海洋プラスチック問題とは ~陸域や河川・海洋に流出したごみ対策についての事例紹介~

こんにちは!note編集部の藤井です。

普段私たちが使っているプラスチック製のペットボトルや容器などは、ポイ捨てされたり適切な処分がされないことにより水路や川に流れ出し、それが海へとたどり着くことで海洋プラスチックごみになってしまうのです。
海洋プラスチック問題とは、そうしたプラスチックごみが海洋汚染や生態系に及ぼす影響を問題視したものです。

今回は、海洋プラスチック問題の現状や陸域や河川・海洋に流出したごみ対策についての事例について、海洋プラスチック分野の専門家である吉田さんにお話いただきました。


プロフィール

吉田さん(海洋プラスチック分野の担当)
業務内容:海洋プラスチック分野の事業検討・開発
経  歴:2008年4月 八千代エンジニヤリング 入社、環境計画部配属
          2019年4月 東京理科大学大学院 理工学研究科
                                    土木工学専攻入学
       2022年3月 東京理科大学大学院 理工学研究科 
                                      土木工学専 博士後期課程修了
      2023年7月 スマートシティ課配属 
                        海洋プラスチック分野の事業検討・開発を担当

1.海洋プラスチック問題とは

プラスチックは1950年代以降に世界的に普及し、2018年には世界で年間約3.59億トンのプラスチックが生産されています 1)。このように、プラスチックはわれわれの生活に欠かせないものとなっており、それはプラスチックが「軽い、壊れにくい(破れにくい)、水に強い」という長所を有するためです2),3)。しかしながら、これらの長所はプラスチックが陸域や河川に放出されると、「沈まずに遠くまで運ばれ、分解せずに残留しやすい」という短所に成り代わります 2),4)。
このようなプラスチック問題は、グローバル規模での海洋環境問題として取り上げられており、プラスチックが海洋ごみの多くを占めていることを指摘しています 5)。

プラスチック問題は、SDGsの17の目標の14に該当し、かつグローバル指標としても「14.1.1 沿岸富栄養化指数 (ICEP)及び浮遊プラスチックごみの密度」と掲げられています 6)。
また、2019年のG20の大阪サミットにおける「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」にて、2050年までに追加的なプラスチック汚染をゼロとする目標が掲げられましたが、2023年4月のG7広島サミットにて、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の目標年数を「10年前倒しの2040年まで」と合意されました。なお2040年という目標は、プラスチック汚染に関する高野心連合(HAC:High Ambition Coalition to end plastic pollution)が2022年8月22日に掲げられており、日本は2023年5月に加入しています。
プラスチックごみは、その大きさにより、5 mm 以下をマイクロプラスチック(Microplastics)、5 mmから25 mmをメソプラスチック(Mesoplastics)、 25 mmより大きいものをマクロプラスチック(Macroplastics)と分類されていますが、国内では、5mmよりも大きいサイズをマクロプラスチック(Macroplastics)としていることが多いです。

海洋プラスチックごみの大部分は陸域から河川を経由して流出することが知られており、本記事では、河川や海岸に流出したプラスチック回収に関する技術を紹介します。

1) Thompson, R.C., et al., Our plastic age. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 2009. 364(1526): p. 1973-1976.
2)Laist, D.W.: Overview of the biological effects of lost and discarded plastic debris in the marine environment, Marine Pollution Bulletin, Vol.18, Isuue 6, pp.319-326, 1987.
 3)Hansen, J.: Draft position statement on plastic debris in marine environments, Fisheries, Vol.15, pp.16-17, 1990.
4)Pruter, A.T.: Sources, quantities and distribution of persistent plastics in the marine environment, Marine Pollution Bulletin, Vol.18, Issue 6, pp.305-310, 1987
5)Derraik, J. G.: The pollution of the marine environment by plastic debris: a review, Marine pollution bulletin, Vol.44, Issue 9, pp.842-852, 2002.
6)一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク:書籍,基本解説 そうだったのか。SDGs 2020 ―我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダから、日本の実施指針まで―,pp.1-106,2017.

2.河川・海洋に流出したプラスチック回収に関する技術

①オイルフェンス・ネットフェンス

オイルフェンスやネットフェンスなどを設置、河川を浮遊するごみを捕捉・回収します。ごみの回収は、基本的には人力作業となります。流速や水深など河川や湖沼の特性上、ごみの回収において危険が伴う場合には、船舶や重機により回収する方法もあります。

図1 オイルフェンス施行事例
出典:前田工繊https://www.maedakosen.jp/case/4473/

②集塵ネット(河川集塵機)

海に流出するごみを減らすためのフローティングネット。通過するごみを集塵ネットで受け、網を河岸に寄せて人力で回収し、ゴンドラでごみを堤防上に引き上げます。ダム・貯水池などに流入する流木や塵芥などから水門や取水設備などを保護するために開発されたものですが、豊富なラインナップがあり、目的や設置場所の環境条件に応じて、カスタマイズが可能です。

図2 集塵ネットを活用した河川ごみの集塵と回収
 集塵ネットの設置
出典:藤沢市 https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kankyou-s/machizukuri/kankyo/bika/campaign/jojinki.html

③ごみ回収船を使ったプラスチックごみの収集

ごみが流れに沿って浮遊するバリアーを河川の上流に設置し、流れ込むプラスチックごみを双胴型のごみ回収船により回収します。河川ごみをバリアーによってごみ回収船の開口部に向かって誘導し、河川の流れによりベルトコンベア上にごみを移動させて、ベルトコンベアが水中からごみを連続的に取り出し、回収船にごみを送り込みます。ごみが満杯になると、オペレーターは、バージを撤去して川岸に運び、ごみ箱を空にし、地元のごみ処理施設にごみを引き渡します。

ごみ回収船
バリアーとごみ回収船 
図3 The Ocean Cleanupが開発した河川ごみ回収システム
出典:The Ocean Cleanup https://theoceancleanup.com/rivers/

④海洋プラスチックごみ回収装置

海や湖などの水面に浮遊するごみを回収する装置です。シービンは吸込み口を上下に稼働させながら、水面に浮遊するごみを周囲の水とともに吸い込む形で回収します。吸い込まれたごみはキャッチバッグで回収され、水はポンプで水中に戻されます。平均回収量は1日当たり1.5kg(1年で1/2トンを超えるごみの量)です。

図4 シービンによる浮遊ごみの回収
出展:https://seabin.co.jp/

⑤水面に浮遊するごみを回収する清掃ロボット(JELLYFISHBOT)

JELLYFISHBOTは水面に浮遊するごみを回収する海洋ドローンです。3種類の収集ネットやオイルシート、吸着剤を使用することで、マイクロプラスチックや油などさまざまなごみを回収することが可能です。

図5  遠隔操作中のJELLYFISHBOT 
出展:https://jellyfishbot.jp/

さいごに

プラスチックごみの削減に向けて、私たち建設・環境系のコンサルタントだけではなく、異業種や異分野の専門家との連携が欠かせません。SDGsという国際目標が確立されたことで、さまざまなステークホルダーとの協力がより取りやすくなってきています。私たちはこの流れを大いに活用し、多様なステークホルダーとのパートナーシップを通じて、海洋プラスチック問題への対応を強化していきたいと思っています。


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