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海を守ろう!海洋プラスチック排出量と削減への取り組み

こんにちは!note編集部の藤井です。

陸から海に流れ込むごみの内、約80%はプラスチックが占めていて、2050年までには海中の魚の重量を上回る可能性があるのだとか​​。
ついつい自動販売機やコンビニでペットボトルに入った飲み物を買ってしまいますが、これを聞くと考えないといけませんね。

前回に引き続き、海洋プラスチック分野の専門家である吉田さんに、今回は海洋プラスチック排出量についてと、当社の取り組みについてお話しいただきました。

前回の記事についてはこちら


プロフィール


吉田さん(海洋プラスチック分野の担当)
業務内容:海洋プラスチック分野の事業検討・開発
経  歴:2008年4月 八千代エンジニヤリング 入社、環境計画部配属
          2019年4月 東京理科大学大学院 理工学研究科 土木工学専攻入学
       2022年3月 東京理科大学大学院 理工学研究科
           土木工学専攻 博士後期課程修了
       2023年7月 スマートシティ課配属 
                        海洋プラスチック分野の事業検討・開発を担当

1.陸域から海域へのプラスチック排出量について

陸域から海域へのプラスチック排出量については、Jambeck 1) et al. や、Lebreton et al. 2)、Schmidt  et al.3)らが、グローバル規模における評価を実施しており、世界からの排出量はそれぞれ、4,800,000~12,700,000t/yr、1,150,000~2,410,000 t/yr、410,000~4,000,000 t/yrと算定しています。日本国内に特化した既往事例として、Nihei  et al.4)、Nakayama & Osako 5)が 、日本における陸域から海域へのプラスチックごみ排出量は、それぞれ、210~4,776t/yr、1,100~3,500t/yrと算定しています。

しかしながら、これらの既往研究は、様々な課題がある中で、当社としては「陸域から海域へのプラスチック排出量を算定する際に使用している観測データは、平常時のデータを使用しており、ごみが多く流れる出水時のデータは考慮していない」という点に着目しています。出水時には、多くのごみが流れることが知られていますが6, 7)、ごみの量を測定するためには、オイルフェンスや直接サンプリングによる手法が用いられており、調査の安全性や作業負荷が課題として挙げられ、実態把握が困難でした。


これらの課題を解決するために、近年は、河川に浮遊しているごみ輸送量を、ビデオ撮影により得られた画像を用いて解析する技術が紹介されています(例えば、Kataoka and Nihei <2020>8)、吉田ら <2021>9)、安達ら <2022>10))。

このような技術の進歩により、これまで明らかにされていなかった「どの河川から、いつ、どのくらいプラスチックごみが流れるか」を把握することができ、科学的知見より得られたデータを用いて効果的な削減対策、さらにその削減効果を得られることが期待できます。

1) Jambeck, J. R., Geyer, R., Wilcox, C., Siegler, T. R., Perryman, M., Andrady, A. and Law, K. L.: Plastic waste inputs from land into the ocean, Science, Vol.347, Issue 6223, pp.768-771, 2015.

2) Lebreton, L.C.M., van der Zwet, J., Damsteeg J.-W., Slat, B., Andrady, A.and Reisser, J.: River plastic emissions to the world’s oceans, nature communications, Vol.8, pp.1-10, 2017 

3) Schmidt, C., Krauth, T. and Wagner, S.: Export of Plastic Debris by Rivers into the Sea, Environ. Sci. Technol., Vol.51, pp.12246-12253, 2017.

4) Nihei, Y., Yoshida, T., Kataoka, T. and Ogata, R.: High resolution mapping of Japanese microplastic and macroplastic emissions from the land into the sea, Water, Vol.12, Issue 4, pp.1-26, 2020.

5) Nakayama, T.& Osako M.: Development of a process-based eco-hydrology model for evaluating the spatio-temporal dynamics of macro- and micro-plastics for the whole of Japan, Ecological Modelling, Volume 476, pp.1-11 2023.

6) 二瓶泰雄,若月宣人:洪水時河川における浮遊ゴミ輸送量計測の試み,土木学会論文集B,Vol.66,No.1,pp.19-24,2010.

7)二瓶泰雄,白川明宏,鈴木達裕,赤松良久:出水時大河川における浮遊ゴミ輸送特性と湾内DOへ及ぼす影響,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.57,No.2,pp.1171-1175,2010.

8) Kataoka, T.and Nihei, Y.:Quantification of floating riverine macro-debris transport using an image processing approach. Scientific Reports, Vol.10, pp.1–11, 2020.

9) 吉田拓司,藤山朋樹,片岡智哉,緒方陸,二瓶泰雄:IP カメラ連続観測と画像解析手法に基づく複数出水時の河川人工系ごみ輸送特性の比較,土木学会論文集B1(水工学),Vol.77,No.2,pp.I_1003-I_1008,2021.

10) 安達 智哉,懸樋 洸大,中谷 祐介:深層学習を用いた河川浮遊ごみ検出手法の開発と流出特性の解析,土木学会論文集B1(水工学),Vol.78, No.2, I_937-I_942, 2022.

 

2.プラスチック汚染をゼロにするための当社の取り組み

 出水時に、河川に流れるプラスチックごみ輸送量が多くなるということは、陸域に多くのごみが漏出していることを意味しています。環境省から発行された「海洋ごみ発生抑制対策等事例集」 10)では、ポイ捨て防止のために、草刈りなどを実施して景観を整える、監視カメラの設置、ごみステーションの不適正利用の防止やカラスなどによる散乱防止対策が紹介されています。また、散乱したごみを回収する取り組みとして、エコツーリズムやスポーツの要素などを様々な清掃活動の紹介がされており、前回のnote「海洋プラスチック問題とは ~陸域や河川・海洋に流出したごみ対策についての事例紹介~」でも記載したような河川ごみ流出防止対策のための、フェンスなどを設置してごみを回収する方法が挙げています。

 しかしながら、2040年までに、海洋への追加的なプラスチック汚染をゼロとするためには、上記以外にも新たな取り組みが必要です。そこで現在、当社が実施している新しい取り組みについて紹介します。

10)  令和3年6月 環境省水・大気環境局水環境課海洋環境室https://www.env.go.jp/content/900543328.pdf


①河川ごみ輸送量と関係していると考えらえる地域特性データを取得

当社では、浜松市にて川ごみ輸送量のモニタリングを長期的に行っています。川ごみ輸送量と地域特性データとの関連性を考えていくためには、図1に示すように、「土地利用状況、人口密度」「河川での清掃活動量」「流域内の開渠水路(蓋がついていない水路)の面積」「河川沿いのごみ集積所」「歩行者や自動車の通行量」「河川内の植生繁茂状況」などのパラメータと比較することによって、相関関係を見出しながら、効率的かつ効果的な対策案を考えていくべきですが、これらのパラメータは整備されておらず、データを別途取得する必要があると考えます。しかしながら、これらのデータ取得を自治体が実施するための予算確保が難しい可能性があります。そのため、例えば、市民との連携によるデータ取得が出来るような世の中になれば、プラスチック問題を解決するための大きなきっかけとなり得ます。

図1 地域特性データについて
出典:令和4年度 浜松市データ連携基盤活用サービス実装支援補助金事業成果報告書 (https://drive.google.com/file/d/1h_IUpV0moxqncSlMmYCIF5czZeL-Cc8q/view?usp=sharing)

②川にどれほどのプラスチックごみが流れているか知ってもらう

海洋プラスチック問題については多くのメディアによって取り上げられ、陸域から河川を経由して海洋にプラスチックが流出していることについては、子どもから大人まで知られるようになりました。島根県では、海洋ごみ予報がされているそうです。

しかし、実際に、どれほどのごみが、どの河川から流れているかは知られていません。そこで当社では、情報発信のスペシャリストであるテレビ業界と連携し、今後、SNSなどに川ごみモニタリング結果の公開を予定しております。 公開した結果を、市民や企業などの方々に見ていただき、結果の見せ方や配信の仕方を検討しながら、最終的には清掃活動人口が増え、プラスチック問題を解決するための関係者を拡大していきたいと考えています。

図2:海洋ごみ予報(https://shimane.uminohi.jp/information/kaiyougomiyohou/)

3.さいごに

プラスチックを含めた海洋ごみの削減対策としては、啓発イベントの実施、チラシ、ポスター作成などを実施してきましたが、今後は、プラスチックごみが河川や海洋へ流出することを直接的に抑制するような取り組みが必要であります。当社は、どの河川からどの程度のプラスチックごみが流出しているかを、把握することが出来ます。リサイクルに力を入れたり、清掃活動に積極的に参加したりするなど、当社の+αの行動が海洋プラスチック問題にどれほど寄与しているかを確認しながら、より新しい取り組みを創出していきたいと思っています。

 

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