最適な防災等計画策定、施設最適設計に役立つ「三次元流体解析技術」
こんにちは。note編集部の大林です。
近年、地球温暖化に伴い大雨や集中豪雨など災害の激甚化が懸念されています。水害や土砂災害から人々の暮らしを守り、災害が発生しても被害を最小限に食い止めるためには、河川や砂防など社会インフラの最適な防災計画を策定し、設計することが大切です。
当社は河川・砂防・海岸構造物周辺の洪水や高波による水の流れを評価する「三次元流体解析」の技術開発を進めてきました。この三次元流体解析を河川や海岸の構造物の設計に活用することで、従来の二次元解析では把握できなかった構造物の弱点を明らかにした災害対策立案に役立てることができます。
開発担当者
三次元流体解析技術とは?
大林:「三次元流体解析」とはどのような技術なのでしょうか?
保坂:河川や海の底は複雑な形をしているため、水の流れは水平方向や鉛直方向の渦が発生していたり、河川堤防や橋の基盤、海にある防波堤など水の中にある構造物の壁に水の流れが衝突すると壁に沿って水が上に跳ね上がったりします。「三次元流体解析」は三次元モデルを作成してそのような三次元的な複雑な流れを解析する手法のことです。
これまでは、複雑な地形や構造物周辺の水の動きを分析するには、川や海の模型を作って実際に水を流してみる「水理実験」を行う必要がありました。また流速や流向、水圧などのデータを取るためには、いろいろな場所に測定器を設置し、計測・記録するという作業が必要で、膨大な費用や手間、作業期間が必要です。
そのような分析に「三次元流体解析」を活用することで、以下のような効果が得られると考えています。
・水理模型が必要であった複雑な水理挙動の評価において、
その代替え・補助ツールとしての活用、また様々な状態への評価に対し、
実験コストや作業の縮減ができる
・結果の分析が容易。さらに直観的な可視化が可能なので現象メカニズムの
解明や意思決定判断の材料として解析結果が活用できる
活用の具体的な例としては、河川を横断する構造物である堰・砂防堰堤等で、形状や規模の案を複数パターン検討し、その三次元モデルを作成して、三次元流体解析を実施します。三次元的な水の流れの影響を考慮した解析で得られる水位・流速を分析して、治水・利水上の最適な構造物の形状・配置を検討できます。
なぜ、開発したのか?-開発背景-
大林:なぜ、この技術を開発しようと思ったのでしょうか?
保坂:この三次元流体解析は、既にありそうですが、実は「膨大な計算時間がかかること」、「計算方法が確立されていないこと」、「計算の不安定性」の問題から、実際の河川、砂防、海岸・海洋事業の計画や施設設計の検討プロセスで活用することは困難であり、学術研究の段階でストップしていた技術でした。
その点に着目し、水防災・水環境保全事業における計画や施設設計最適化の実現のため、1~2年間程度の開発期間を設けて、水理実験の再現計算やトライアル計算を実施し、現実的な計算負荷で解析できる計算格子配置や解析条件の知見を蓄積することで、当社が初めて社会実装可能な段階にまで至っています。
誰が使っているの?-利用者状況-
大林:実際にどんな方がこの技術を使っているのでしょうか?
保坂:三次元流体解析は主に河川・砂防構造物の設計・改築に関わる水理解析が必要とされる業務に適用しています。これまでに国土交通省地方整備局や都道府県の行政の業務に導入いただいています。
河川を横断する構造物である堰や砂防堰堤を越流するような流れは、一般的に河川分野の実務で適用されている一次元や平面二次元の解析では評価できず、水理模型実験が必要となります。先ほどの通り実験には手間・コストがかかるため、その代替案として三次元流体解析をご提案したところ採用いただきました。
河端:当社では三次元流体解析を積極的に他部署にも水平展開すべく、保坂さんが講師となり社内勉強会が開催されています。私もその勉強会に参加させていただき、技術に関する理解を深めたことで、業務への活用や開発に関わることができるようになりました。
座波:解析ソフトウェアの導入マニュアルやチュートリアルも整備していますので、社内の誰でも利用できる環境を整えていますね。
開発担当者からのコメント
保坂:最近は三次元測量技術が進歩しているので、三次元流体解析もそれに応じて高精度化ができるのではないかと考えています。流体と物体の挙動解析を組み合わせて、構造物の不安定化や破壊をシミュレートするような新たな技術開発、また流体に留まらず対象を広げた解析も視野に引き続き取り組んでいく予定です。
サービス概要
名称:河川・砂防・海岸構造物を対象とした三次元流体解析技術
価格(税込):1,000,000~3,000,000円/ケース
発売年月日:2017年10月より提供
販売場所:八千代エンジニヤリング本社
詳細:https://www.yachiyo-eng.co.jp/news/2020/01/post_472.html
<参考>論文紹介
三次元流体解析については、以下の論文発表を行っております。
「市川の歴史的河川施設機能を考慮した河川整備」(土木学会、2019年度河川技術に関するシンポジウム)
https://www.yachiyo-eng.co.jp/papers/2019_25_hosaka.pdf
「陸上・海底地すべりによる津波の3次元数値解析」(土木学会、第66回海岸工学講演会)
https://www.yachiyo-eng.co.jp/papers/2019_51_hosaka.pdf
「三次元流体解析を用いた砂防堰堤の前庭保護工の機能検証事例について」(砂防学会,2019年度 砂防学会研究発表会)http://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2019/pdf/170.pdf
「三次元流体解析を用いた砂防堰堤の前庭保護工の機能検証事例について(2)」(砂防学会,2020年度 砂防学会研究発表会)https://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2020/pdf/2020_abstract.pdf(P.351~)
「落差を有する合流点の三次元流況解析」、(砂防学会、2022年度砂防学会研究発表会)
https://sabo-meeting.com/2021/pdf/2021_abstract_ver2.pdf (P.427~)
「2次元・3次元ハイブリッド津波解析手法に関する研究」(土木学会,第68回 海岸工学講演会)
https://www.yachiyo-eng.co.jp/papers/2022_197_hosaka.pdf