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日本企業のCDP水セキュリティへの取り組み~パルプ技術協会主催の環境セミナー登壇報告~

こんにちは、note編集部の鈴木です。

近年、気候変動の進行や自然劣化に伴い、企業の環境面での取り組みが進展しています。国際会計基準(IFRS)財団は2021年に「International Sustainability Standards Board(ISSB)」を設立し、ESG情報の国際的な開示基準を公表しました。日本でもサステナビリティ開示基準が開発され、企業の環境情報開示が推奨されています。

今回は、7月17日(月)に開催された紙パルプ技術協会さま主催の環境セミナーにて、当社のサステナビリティサービス部の吉田さんが「日本企業のCDP水セキュリティへの取組事例」と題した講演を行いましたので、その内容を一部抜粋してお伝えします。


登壇者紹介


サステナビリティサービス部門のマネージャー 吉田さん

大学・大学院では、地質学を専攻。
八千代エンジニヤリング入社後は、公共インフラ事業に関するコンサルティング業務に従事し、2018年より民間企業のサステナビリティ関連業務を担当。

<保有資格など>
技術士(応用理学部門、建設部門、総合技術監理部門)
経営学修士
Alliance for Water Stewardshipプロフェッショナルスペシャリスト

CDPとは

CDPは、英国の慈善団体が管理する非政府組織(NGO)であり、企業や自治体に対し、気候変動をはじめとする環境分野に関する情報開示プラットフォームを提供し、格付けを行っています。

CDPの仕組み、スコアとその意味

出典:CDP水セキュリティ2023詳細編ウェビナーVer 2.0より当社作成

CDPは機関投資家などからの要請を受け、企業などに質問書を送付し、その回答をスコアリングし、公表しています。

CDPのスコアは、A,A-~D,D-の計8段階で評価されます。例えば、DやD-は情報開示の段階で、現状把握ができているかどうかが評価基準となります。また、最高クラスのAやA-のスコアを獲得するには「環境問題をどのように解決しようとしているか」といったリーダーシップの観点が求められます。

CDPのテーマと回答企業数

CDPでは、毎年企業などに対し、以下の3つのテーマに関する質問書を送付し、格付けを実施しています。

1, 気候変動
2, フォレスト
3, 水セキュリティ

日本企業においては、2014年当初の回答対象企業は150社でしたが、2017年からは約350社に増加し、2023年からは1207社にまで増加しています。回答企業数も年々増加し、2014年当初は79社でしたが、2023年には513社と増加傾向にあります。

CDP水セキュリティに対する日本企業の回答企業数と未回答企業数の推移

回答企業数の推移は、グローバルにおいても同様に増加傾向であり、CDP水セキュリティへ回答する企業は4,815社、気候変動については23,202社に上ります。

CDPに回答する意義・理由

近年、CDPに回答する企業が増えています。ここではまずはその背景について解説します。また、企業が回答するメリットとして、5つの意義と3つの理由について、CDPのホームページで公開されている情報をもとに紹介します。

CDP回答数増加の背景

世界的なCDP需要に関する3つの背景
CDPグローバルサイト(https://www.cdp.net/en/companies/companies-scores)をもとに当社作成

CDPの回答書は、水セキュリティだけで最大約160問と非常に多いだけでなく、回答にあたっては社内の複数部門との調整や情報収集を行う必要があり、回答担当者にとっては大きな負担となっていると考えられます。

それにも関わらず年々回答企業数は増加しています。その背景にはCDP回答を、700以上の金融機関が企業に対して、大手バイヤーが数千のサプライヤーに対してそれぞれ情報開示を要請しているという点が挙げられます。

CDPに回答する5つの意義

まず、企業がCDPに回答する意義は以下の5つです。

1, 企業の評判を保護し、向上させる
2, 株式市場でのパフォーマンスなど競争上の優位性を高める
3, 進捗状況の追跡とベンチマーク
4, リスクと機会を明らかにする
5, 複数の地域の報告規則を満たすことができ、規制に先んじる

情報の開示により、透明性を通じて信頼を築き、一般の人々の間で高まる環境への懸念に対応できたり、株式市場でのパフォーマンスに関してや資金調達、入札時における競争上の優位性を獲得できる点でCDPに回答する意義があります。

また、国際的に認められた持続可能性スコアと気候目標に対するフィードバックを使用して、競合他社と比較した環境パフォーマンスをベンチマークできます。

さらにCDPに回答することで、新たな環境リスクと機会を特定し、データ主導の戦略に情報を提供し、そうした情報を開示することにより、それぞれの地域における報告規則を満たすことも可能です。

CDPに回答する3つの理由

次に、企業がCDPに回答する主な理由は以下のようなものが考えられます。

1, 取引先からの要請
2, 競合への対応
3, 社内での関心の高まり

取引先から、今後の取引条件としてCDPのリーダシップレベルのスコアが求められるようになったり、競合がCDPで高いスコアを獲得しているため、同等以上の評価を獲得する必要がある場合などがCDPに回答する理由です。
また、社内での関心の高まりにより、上層部より回答に対する要請が生じるケースもあります。

CDP水セキュリティの概要

「水」は企業の活動において重要な要素であり、水不足や水汚染、水災害などは企業にとって重大なリスクとなります。

こうした状況を踏まえ、CDPでは、企業の持続的な水管理手法の1つであるウォータースチュワードシップ向上を目的に水セキュリティの質問書を作成しています。

水セキュリティの質問構成

CDP2023では、水セキュリティに関してW0~W11の計12の設問セクションで構成されており、この中には気候変動やフォレストと類似した設問も存在していました。

また、環境テーマによって回答内容が異なる可能性はありますが、設問の聞き方は気候変動やフォレストと似ています。

質問書統合

一方で、CDP2024では、気候変動・水・フォレストが統合されました。

この背景には、気候危機への対処は、自然危機への対処なしには達成できないという見方があります。異なる環境問題に対して公平な方法で取り組むことが重要であるため、全体的でバランスの取れた情報開示を促すことが質問書統合の目的でした。

CDP水セキュリティ2023から見る日本企業の水リスク対応傾向

CDPへの回答は、企業側が公開することに同意している場合、CDPホームページにて確認できます。CDPでは、毎年の全体的な傾向について、気候変動、水セキュリティ、フォレストの各分野でレポートを作成しています。


CDP2023の特徴

CDP2023における継続回答企業の割合

CDP2023は、質問書が送付された回答対象企業が大幅に増加しており、継続的に回答してきた企業と、新規で回答する企業では傾向に違いがあります。CDP水セキュリティ2023の全回答企業513社において、継続回答企業は約半数の256社に上ります。

まとめ

  • CDPは、企業の環境対応についての回答をもとにスコアリングを行うNGOであり、回答企業は近年急増している

  • 企業がCDPに回答する理由として、①取引先からの要求、②競合の動き、③社内での関心の高まりが挙げられる

このほか、Aリストの先進企業による回答例なども当日はお伝えしましたが、詳細が気になる方はぜひお問い合わせください。