共助の時代がきた!シビックテックが示す新しい社会貢献の形
こんにちは!note編集部の藤井です。
皆さんは、「共助」(きょうじょ)という言葉をご存じですか?身の回りのことや、地域の諸課題、さらには災害時の対応など、自分自身や家族で助け合う「自助」(じじょ)、自治体など行政が中心に対応する「公助」(こうじょ)に対して、貢献できる方が、貢献できる範囲で、自ら進んで、課題解決に貢献することを指します。
自分自身や家族のことを守るのは当然のこと、という考えがあります。一方で、少子高齢化などによりそれが困難な面も出てきています。災害時などは自助だけでは対応しきれません。
公助も、国の借金が膨らみ続けるなか、今後、その在り方は大きく変容していくことが想定されます。新型コロナウイルスの初期段階では、対応の遅れなど、公助の混乱も目立ちました。
そこで、共助です。1995年に発生した阪神・淡路大震災でのボランティア活動で一気に注目が集まりました。また、近年では、ITテクノロジーを取り入れた共助の取り組みが進んでおります。その一つが「シビックテック」です。
今回は、シビックテック分野の専門家でもある柴田さんにシビックテックとその活用事例についてお話いただきました。
柴田さんのサーキュラーエコノミーに関する記事はこちら
プロフィール
柴田さん(シビックテック・サーキュラーエコノミー分野の担当)
業務内容:シビックテック・サーキュラーエコノミー分野の事業検討・開発
経 歴:2007~2021年 グローバル企業 環境部署の責任者として従事
2021年9月 八千代エンジニヤリング入社
2023年7月 開発推進部配属
シビックテック・サーキュラーエコノミー分野の事業検討・開発 を担当
シビックテックとは?
シビックテックは、シビック(市民)が主体となり、テック(主としてITテクノロジー)を活用して社会課題解決に取り組むソリューションツールまたはその活動を指します。現時点では唯一絶対の詳細な定義が確立しているわけではないので、どのような要素が備わればシビックテックと言えるのかなど、その中身は人により解釈に幅があるようです。本稿では、事例を交えながら幅広にシビックテックを捉えていきます。
「シビック(市民)が主体」の方法論として、大きく2つに分類することができます。
ソリューションの「プログラム開発側として参加」するか、「使用側として参加」するか、です。
「プログラム開発側として参加」は、行政、または民間機関が構想した社会課題解決ソリューションのプログラム開発をプログラマーなど開発側として参画していくものです。そのため、プログラムはオープンソースで提供されることが前提となります。オープンソースとは、ソフトウェアのプログラムを無償で公開することです。また、関連するデータは開発者が扱いやすいようにオープンデータで提供されることが望まれます。オープンデータとは、行政などが保有するデータを、国民がアクセスしやすく、かつ加工しやすい形式で提供することです。デジタル庁のホームページに詳細がありますので、詳しくはそちらをご参照ください(https://www.digital.go.jp/resources/open_data)。
プログラム開発型で有名なものとしては、東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」があります。2020年3月にリリースされたサイトで、陽性者や病床使用状況など様々なデータを公開したものです。開発を行ったのが一般社団法人Code for Japanという団体です。国内外の多くのエンジニアが開発に関与しました。
シビックテックで楽しく社会貢献!(事例紹介)
「ソリューションの使用側として参加」とは、開発者が市民か、行政か、企業かは別として、既に存在するソリューションを使って、社会課題解決に必要なデータ取得などを市民が行うことです。特徴的な事例がいくつかあるので紹介いたします。
(1)電柱聖戦
シンガポールに拠点を置くWhole Earth Foundationは、「TEKKON」というスマホアプリで、マンホールや電柱などの街中のインフラを市民が撮影し投稿することでインフラ点検の効率化を図っています。「電柱聖戦」と称したイベントを各地で開催しており、市民はポイントを獲得することができるなど、経済的便益も享受できます。
「TEKKON」のホームページによれば、投稿された電柱の写真は約94万本(2023年11月13日時点)。日本全国の電柱数が約3,600万本(資源エネルギー庁2021年5月資料より)ですが、「TEKKON」が電柱を対象としたのが2022年ですから、その拡がりは目を見張るものがあります。
(2)清走中
ゲーミフィケーションを活用した他事例としては、株式会社Gabが提供する「清走中」があります。市民がスマホを使いながら、ごみ拾いをしていくものです。データ提供だけでなく、ごみ拾いというリアルが組み合わさっているところがユニークだと思います。
(3)My City Report
「TEKKON」のように、インフラに関する情報を提供するソリューションとして、「My City Report」があります。参加した自治体において、例えば道路の欠損やごみの散乱などを市民がスマホで報告、行政が受け取って対応を図るものです。行政によるインフラ点検の効率化、あるいは課題解決の迅速化に資するソリューションで、東京都や千葉市、東広島市など、導入自治体は全国に広がっています。
(4)Biome
生物多様性をテーマにしたソリューションが、株式会社バイオームが提供するスマホアプリ「Biome」です。AI技術を用いた生物種の判定機能などを有しており、東京都と「東京いきもの調査団」というイベントを実施し、東京都の生物多様性に関するデータ収集・整理を行っています。
「東京いきもの調査団」のホームページによると、2023年8月から9月にかけて実施したイベントでは、約7万件もの投稿があったそうです。
「ソリューションのプログラム開発側として参加」するには、プログラミングやITに関する一定の知識・専門性が必要になります。そのため、参加にはハードルが高い面があることは否めません。
しかし、従来一般的であった、官からの一方通行的なサービス提供を受けるだけでは、多様化・複雑化する課題・ニーズに対応できなくなってきています。前出のCode for Japanでは、シビックテックの3ステップとして①見つける②話す③試しにつくる、を挙げています。「試しにつくる」は難しいとしても、「見つける」「話す」は参画しやすいのではないでしょうか。
Fun・ゲーミフィケーションで市民参加を
市民の方に参画いただくには、市民の方が便益を享受できることが肝要です。何が便益かは人により異なりますが、ポイント受理、得点を競う、仲間(同じ参加者)とのつながり、貢献の可視化、感謝、などが各事例には内包されていると感じます。このようにゲームで使われている要素を取り入れることを“ゲーミフィケーション”と言います。ゲーミフィケーションは、シビックテックをはじめ、市民を巻き込んで社会課題を解決していくうえで重要な要素と思います。
本記事では、多様化・複雑化する社会課題の解決に向けた一つの手段としてのシビックテックを、少し幅広に解釈してご紹介させていただきました。官や一部の企業に委ねるのではなく、市民が主体的に関与していくことが多様化・複雑化する社会課題の解決には必要だと思います。そのためには、市民自身が社会課題に関心を寄せ、自身の考え・行動を変容していくことも重要です。次の機会に、この点について触れていきたいと思います。
※各事例の分類などは、筆者の考察に拠るもので、各事例の提供者が明示しているものではありません。