見出し画像

国内で使える環境価値クレジット・証書の違いと現在の市場環境~オンラインセミナー報告~

こんにちは、note編集部の青木です。

当社は、8月22日(木)にオンラインセミナー「国内で使える環境価値クレジット・証書の違いと現在の市場環境」を開催しました。

セミナーでは、国内で使用できる環境価値クレジットと証書の違いの解説に加えて、現在の取引相場や調達方法、供給余力、将来的な見通しなどについて紹介しました。
今回の記事では、セミナーの内容をダイジェストでお届けします。


環境価値クレジット・証書とは

はじめに、環境価値そのものの意味と、環境価値クレジットおよび証書についての解説がありました。

再生可能エネルギーには、「エネルギーとしての価値」と「環境価値」の両方が含まれています。環境価値とは、ゼロカーボンであることや、再生可能エネルギー由来であることを指します。環境価値クレジットや証書は、この「環境価値」部分を取り出して、取引可能にしたものです。

クレジットと証書は似ていますが、異なるものです。

クレジットは、通常の排出量と、脱炭素プロジェクトによって削減された排出量の「差分」に基づいています。一方、証書は、再生可能エネルギーが持つ「環境価値そのもの」を分離して取引するものです。

クレジットと証書は、それぞれ対象や生成方法、運用方法が異なり、メリットとデメリットもそれぞれあります。

環境価値クレジットと証書の違い
環境価値クレジットと証書の違い

国内で使えるクレジットの種類

国内で使用できるクレジットには、J-クレジット(再エネ系、省エネ系、吸収系)、JCMクレジット、ボランタリークレジットがあります。

J-クレジットは「再エネ系」「省エネ系」「吸収系」の3つに大別され、それぞれの対象範囲(Scope)が異なります。取引方法は多様で、相対取引や市場取引、転売による仲介売買が可能です。これにより、売り手と買い手の双方にとって柔軟な取引ができる点が特徴です。

J-クレジットの種類の説明
J-クレジットの種類

JCMクレジットは、別名「二国間クレジット」とも呼ばれます。これは、日本がパートナー国で実施した脱炭素施策によって生み出された削減量をクレジット化し、日本国内の排出削減目標達成に活用する仕組みです。企業もこのクレジットを利用できます。

JCMクレジットの概念図
JCMクレジットの概念図

出典:経済産業省「JCM(二国間クレジット)」

ボランタリークレジットは、民間が主導するクレジット制度です。自由度が高い一方で、信頼性が公式に担保されていない点が課題とされています。

国内で使える証書の種類

国内で使用できる証書には、非化石証書(FIT非化石証書、非FIT非化石証書)とグリーン電力証書があります。

FIT非化石証書は、需要家が国内法や国際的なイニシアチブの目標を達成するために利用されます。一方、非FIT非化石証書は、主に小売電気事業者が課された目標を達成するために使われます。

非化石証書の種類の説明
非化石証書とは

グリーン電力証書は、民間主導で始まった証書制度で、FIT制度が導入される前から存在しています。「CO₂削減相当量認証制度」が設けられ、これにより温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)などのコンプライアンス市場でも利用できるようになりました。

グリーン電力証書の説明
グリーン電力証書とは

環境価値市場の展望

今後の環境価値クレジット・証書の市場展望について、「需要の高まりに対して供給力が不足する」「産地価値や特定電源価値の需要が増加する」「環境価値の囲い込みが進行する」可能性の3点を説明しました。

これらの背景には、2026年に予定されているカーボンプライシング制度(CO₂排出に対する課金制度)の導入や、省エネ法の改正が挙げられます。
カーボンプライシング制度は、これまでヨーロッパや北米を中心に導入されてきましたが、最近ではアジア諸国にも広がりつつあります。この制度により、CO₂排出にかかるコストが増大するため、企業は再生可能エネルギーの導入を進めざるを得ず、結果としてクレジットや証書の需要が一層高まると予測されています。

また、FIT非化石証書では発電場所や発電方法の証明が難しいため、「産地価値」や「特定電源価値」を利用して環境価値を証明する動きが活発化しています。企業のクレジットや証書の調達では、「特定地域との結びつきのある調達」という考え方が広まりつつあります。これにより、自社の工場がある地域や関連の深い地域の電源を購入することで、その地域の環境活動に貢献し、追加性や情報公開性を高めることを目指しています。

まとめ

  • クレジットと証書は創出方法・使用方法・用途などが異なるまったくの別物

  • 企業にとって証書やクレジット調達は、主要な脱炭素手法の1つになっている

  • 国内で使えるのは、非化石証書、J-クレジット、グリーン電力証書

  • クレジットや証書に対する需要は年々高まっており、価格上昇が予想される

  • 産地価値や特定電源価値の指定に対する需要は高まっている

  • 環境価値の囲い込みに動いている企業も増えている

環境価値クレジットや証書への需要は年々高まり、今後も価格の上昇が予想されています。また、産地価値や特定電源価値への関心が高まる中で、環境価値の囲い込みに取り組む企業も増加しています。

最後に「企業は自社の脱炭素戦略において、環境価値の最適な組み合わせや調達戦略を検討するべきフェーズに来ている」ことを説明しました。

さいごに

カーボンプライシング制度の導入を控え、持続可能な経営活動において、再生可能エネルギーの調達がますます重要となっています。皆さまの会社にとって最適な環境価値のミックスとは何か、この機会にぜひご検討いただけますと幸いです。

当日ご参加いただきました皆さま、本当にありがとうございました。この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひサステナビリティNaviまでお気軽にご相談ください。

講演者情報


八千代エンジニヤリング株式会社 喜多川さん

前職は企業の環境コンサルタント。現在は官民連携による地域の脱炭素化をコンサルティング・事業の両面で推進中。
地域の脱炭素・再生可能エネルギー普及計画の策定、官民共同出資による新電力「株式会社なんとエナジー」設立、官民連携によるグリーン電力証書事業の立ち上げなどに従事。農学博士。