見出し画像

サーキュラーエコノミー(循環型経済)の事例について~飲料業界をモデルに 3R(Refuse、Reduce、Renew)について解説~

こんにちは!note編集部の藤井です。
これまでサーキュラーエコノミー(循環型経済)分野の専門家である柴田さんに、サーキュラーエコノミーの概要や政策の変遷を解説していただいています。

過去記事はこちらをご覧ください。

第3弾となる今回は、飲料ビジネスにおけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の事例について解説いただきました。14年間グローバル企業で飲料ビジネスに携わってきた柴田さんだからこそ分かる事例となっていますので、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。


プロフィール

柴田さん(サーキュラーエコノミー分野の担当)
業務内容:サーキュラーエコノミー分野の事業検討・開発
経  歴:2007~2021年 グローバル企業 環境部署の責任者として従事
     2021年9月 八千代エンジニヤリング入社
     2023年7月 開発推進部配属
     サーキュラーエコノミー分野の事業検討・開発を担当

1.飲料ビジネスにおけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の事例とは?

サーキュラーエコノミーの事例について、スタートアップ企業や大企業による取り組みを紹介するインサイトやウェブページは多数あります。そのため、そのような事例は他の情報源に委ねるとして、本記事では、私が以前従事した飲料ビジネスをモデルに、3Rをはじめとするサーキュラーエコノミー事例を深掘りします。飲料ビジネスの事例をご紹介した上で、他のビジネスでも活用できるヒントを添えたいと思います。

なお、私が最近、スタートアップの情報が体系的に整理されているなと感じたのは以下の記事になります。併せてご参照ください。

10Rについてお聞きになったことはありますか。日本では3R(Reduce、Re-use、Recycle)や5R(Refuse、Reduce、Re-use、Repair、Recycle)を掲げることが多いようです。一方、サーキュラーエコノミーを積極的に推進するオランダのアムステルダム市では、サーキュラーエコノミーの優先順位として、環境に配慮した行動や慣習を促進するための原則10R(図1参照)を掲げています。以下、Refuseから順に、飲料ビジネスに関係の深い“R”について事例を基に解説していきます。

図1:10R “The Circular Economy Programme in the Amsterdam Metropolitan Area”
(https://amsterdameconomicboard.com/app/uploads/2019/10/Progress-Report-Circular-Economy-Boar_V1.pdf)を基に筆者意訳

(1)Refuse

Refuseは、5Rでも掲げられているので、ご存じの方も多いかと思います。“拒否する”という意味で、「そもそもその製品や原材料を使わない」ことを指します。 
飲料ビジネスにおけるRefuseでは、ペットボトルや缶などの容器が挙げられます。最近ではマイボトルを利用する方も多いのではないでしょうか。2013年の環境省調査によると62%の方がマイボトルを保有しています。海洋プラスチックごみ対策として、「ペットボトルを控えてマイボトルを使用しよう」という意見もあります。

図2 マイボトル所有率 環境省「平成25年度マイボトル・マイカップの普及促進のための啓発及び調査業務報告書」を基に筆者作成

飲料メーカーにとっては、ペットボトルや缶飲料の購入を抑制するRefuseはビジネスリスクになります。一方で、マイボトルを製造するメーカーや、ペットボトルや缶飲料以外の飲料提供モデル、例えば自宅で手軽に炭酸水を作る機械のメーカーなどにとっては、ビジネスチャンスとなります。私が新型コロナウイルス感染症が流行する前にロンドンを視察した際には、多くのコーヒーチェーン店などで水を無料でマイボトルに提供していました。日本のスーパーなどで蒸留水を提供するのも同じで、顧客接点を得るためのサービスになりますが、これもRefuseを活かしたビジネスチャンスかと思います。

このように、サーキュラーエコノミーは自社の立ち位置に応じて、ビジネスチャンスになることもあれば、ビジネスリスクになることもあります。
一方、飲料メーカーにおいても、これをビジネスチャンスと捉える動きも出てきています。後述のReuseと重複しますが、コカ・コーラ社は2022年、「2030年までに飲料提供の25%は再利用可能な容器で提供する」と発表しました。日本においては「ボナクアウォーターバー」というマイボトルへの水および炭酸水供給ビジネスを開始しました。

また、ここ数年の飲料メーカーの取り組みとして、ペットボトルのラベルを無くす「ラベルレス」の取り組みが進みました。ラベルは法律や業界のガイドラインにより必要なモノのため、以前は無くすことができませんでした。ラベルに伴うプラスチック使用量および温室効果ガス排出量を削減する施策として、手前みそですが、私が省庁や関係団体に働きかけたことをきっかけに実現に至りました。

Refuseは、既存メーカーにとっては現在主力の事業と利益を奪い合うカニバリゼーションを起こす可能性があります。そのため、社内での理解を得ることが容易でないケースがあります。一方で、社会の大きな流れに抗うことはできません。横浜市が2022年に実施した市民アンケートでは51%の回答者が「マイボトルを使用しペットボトルの購入を減らす」としています。Refuseも詳細に見ていくとビジネスチャンスは広がっているかと思います。

(2)Reduce

Reduceは日本でいちばんお馴染みの3Rで掲げられていますので、ご存じかと思います。“減らす”という意味で、資材や製品を軽量化することによるReduceは多くの企業で取り組んでいます。ペットボトルの軽量化の取り組みは業界団体である「ペットボトルリサイクル推進協議会」が取りまとめていますので、参考にしてください。(https://www.petbottle-rec.gr.jp/nenji/2023/2023.pdf?231122)

広義には、廃棄の削減もReduceに該当すると考えます。需要予測精度の向上、3分の1ルールの廃止、原材料の共通化などで廃棄の削減を進めています。飲料は、新製品が多く当たり外れが大きい、気温や天気による影響を受けやすい、小売りで特売の対象になりやすいなどの特徴があります。これらは需要予測に影響を与えますが、欠品は回避したいので、在庫を多めに抱えると、場合によっては廃棄につながります。

3分の1ルールとは、食品における商習慣で、賞味期限のはじめの3分の1期限内にメーカーから小売に納品、次の3分の1期限内に販売、最後の3分の1の期間になったら、つまり賞味期限の3分の2が過ぎたら基本的に廃棄する、というものです。食品廃棄の一因だったり、1日でも消費期限を延ばすために小ロット生産をしたり、と経営を圧迫する要因でした。行政や製造・卸・小売の連携によりだいぶ解消は進んでいますが、まだ改善の余地はありそうです。
飲料業界は特に新製品が多く、そのほとんどはあっという間に終売になります。そのため、特殊な原材料を用意した場合、終売になるとそれら原材料が廃棄となるリスクがあります。そこで、個々の製品の特性を活かす範囲内で、原材料を共通化することで廃棄リスクの低減を図ります。
廃棄削減の視点では、工場での不良品低減などによる歩留まり向上は多くの社でかなり高い水準に達していると思います。サプライチェーン全体に視野を広げると、Reduceのネタを見つけることができるかもしれません。

(3)Renew

Renewは“元も戻す”という意味ですが、ここでは「資源循環を目的に再設計する」という意味で用いています。
ペットボトルはメーカーに関わらず無色で、ラベルにはミシン目が入っている(ミシン目が入っているのはシュリンクラベルと言います。ミシン目がないが引きはがしやすいようになっているものをロールラベルと言います。)のは何故かご存じでしょうか。これは法律ではなく、業界が自主的に取り決めているのです。PETボトルリサイクル推進協議会が策定した「指定PETボトルの自主設計ガイドライン」(https://www.petbottle-rec.gr.jp/guideline/jisyu.html)によると、この中でボトルは無色であること、ラベルにはミシン目を入れることなどが規定されています。リサイクルを目的にした環境配慮デザインのガイドラインです。このガイドラインのおかげもあり(それ以外にも多々理由はあります)ペットボトルはリサイクルの優等生となっています。

例えば色。緑茶のイメージですとか、特定の製品のシンボルカラーを活かした有色ボトルを望む声もありましたが、2001年に無色とすることが規定されました。色は混ざると黒になりますが、ボトルを無色にすることで、リサイクルしやすい無色の再生材を作ることができます。個々の企業の損得を乗り越えた先人の尽力に頭が下がりますね。

1社だけが環境配慮デザインをしても、回収の現場では他製品も混ざりますので、リサイクル推進上は意味を成さなくなります。業界、あるいは製品群でまとまることがサーキュラーエコノミー推進においては必要かもしれません。
なお、有色ボトルを見かけることがときおりあるかと思います。有色ボトルは基本的には輸入モノです。業界として輸入元にも「指定PETボトルの自主設計ガイドライン」の遵守を依頼しているのですが、個社の判断で販売されている状況です。

2.さいごに

本記事では、飲料業界にとってなじみのあるRefuse、Reduce、Renewについて取り上げましたが、Re-use以降は次回のnote記事で取り上げますので、お楽しみにしていてください。