脱炭素に向けた重要セクター!SBTi-FLAGの目標設定手法とは
こんにちは、note編集部の青木です。
突然の質問ですが、皆さまは「SBTi-FLAG」という用語をお聞きになったことはありますか?この記事をご覧いただいている方の中には、「取り組まなければいけないと思っているけど何をしていいのかわからない」という方や、「そもそもSBTi-FLAGとは?」と思われている方も多いのではないでしょうか。
SBTi-FLAGとは、企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標設定(SBT)のセクター別のガイダンスとして、2022年に新たに設けられた森林・土地・農業セクターを指しています。パリ協定の目標達成に向けて、SBTi-FLAGの排出量を把握し、削減することが重要とされており、現在注目されています。
そこで当社では4月18日(木)に「脱炭素に向けた重要セクター!SBTi-FLAGの目標設定手法とは」と題したセミナーを開催し、SBT認証支援やSBTi-FLAG算定支援などのサステナビリティコンサルタント業務に携わってきた当社の本田さんから、SBTi-FLAG目標が求められる背景とその設定プロセスについて説明しました。
今回の記事では、セミナーの資料を基に、SBTi-FLAGの重要性や設定プロセスについてご紹介します。
SBTi-FLAGとは?GHG排出量の現状と課題
世界の温室効果ガス(GHG)排出量は右肩上がりに上昇を続け、2019年には590億トンに達しました。近年では排出削減政策が進展し、経済成長と排出削減を両立する国が増えてきています。その結果、2010年から2019年の排出量増加率は、2000年から2009年の数値を下回りました。
一方で、パリ協定が求める、企業が設定するエネルギーや産業由来のGHG削減目標(産業革命前と比べて、Scope1と2での気温上昇を1.5℃未満、Scope3では2.0℃を十分に下回る水準)を達成するためには、依然として急速かつ大幅なGHGの排出削減が必要です。
全世界のGHG排出量は複数のセクターに分類されています。その中で、エネルギー・システムセクターが約34%と最も多く、次に産業セクターが約24%を占めています。そして3番目に多いのが森林・土地・農業セクターで、これらの頭文字「森林(forest)・土地(Land)・農業(Agriculture)」を取り「FLAG」と呼ばれています。また、科学界では農業、森林、その他の土地利用(AFOLU)セクターとしても知られています。
全世界のGHG排出量の約22%を占めるFLAGですが、これまで企業がその排出量を算定する際には考慮されていなかったのです。また、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定するエネルギー/産業由来のGHGの削減目標(Science Based Targets=以下SBT)において、農業・土地利用関連の排出要素を要求していませんでした。
世界の人口増加に伴う食料需要の増加に対応するため、2050年の農業生産は2012年よりも約50%増加すると見込まれています。この状況で対策を講じなければ、FLAGセクターの排出量は増大し続けると予想されます。そのため、パリ協定の目標達成に向けて、FLAGセクターの排出量を把握し、削減することが重要課題とされています。
SBTiは、企業のFLAGセクターのGHG排出量に対するガイダンスを2022年9月に公開しました※。また、GHGプロトコルは、FLAGの算定方法についてのガイドラインの草案を2022年9月に公表し、2024年中にバージョン1.0が発行される予定です。
※現在は2023年12月に発行されたバージョン1.1
FLAGターゲットは、他のエネルギー/産業などFLAG以外のターゲットとは独立しており、通常のSBTターゲットを補完するような位置付けとなっています。
SBTi-FLAGの対象企業
SBTiは2つの基準のいずれかに該当する企業に対し、SBTi-FLAGの目標設定を求めています。
1つ目は、SBTiが指定する産業セクターの企業で、
・森林および紙製品(林業、木材、パルプ・紙、ゴム)
・食料生産(農業生産)
・食料生産(動物由来)
・食品および飲料加工
・食品および生活必需品小売
・タバコ
が対象です。
2つ目は、FLAGに関連するGHG排出量の合計が、総排出量(Scope1、2、3)の20%以上を占める企業です。そのため、企業のFLAG排出量が総排出量の20%以下であることを証明するためには、全ての企業でFLAGの排出量を算定する必要があります。
ガイドラインではSBTi-FLAGの目標を定める必要がある企業の例としては、ホテル、レストラン、レジャー、観光サービス、繊維、アパレル、履物、高級品、タイヤなどが挙げられています。
なお、企業がScope1、2、3で、FLAGに関するGHG排出量の合計が20%を下回っても、SBTiは、この基準値を下回る企業に、SBTi-FLAGの目標設定を推奨しています。また、企業がSBTi-FLAGの目標を設定しないことを選択した場合には、FLAGに関連するGHG排出量は、エネルギー/産業(非FLAG)目標とともに、目標全体のバウンダリに含まれ、説明しないといけません。
SBTi-FLAGの設定が必要な企業のうち、現在通常のSBT認定のない企業が新たにSBT認定を取得するにはSBTi-FLAGの目標が必須となっています。また、すでに通常のSBT認定済みの企業は、GHGプロトコルのガイドラインの最終版の発行後6カ月以内にSBTi-FLAGの目標を追加しなければなりません。
SBTi-FLAGの認定基準
SBTi-FLAGの認定を受けるためには、2つの条件が必須となります。
1つ目の条件は、森林減少防止に取り組むことです。
ガイダンスによると、2025年12月31日までにすべてのGHG排出量をカバーする森林減少を行わないことを約束することが求められています。
2つ目の条件は、FLAGに関連するGHG排出量の算定および削減目標の設定です。SBTi-FLAGの削減目標は、FLAGに関連するScope1および2の排出量の少なくとも95%をカバーしなければなりません。
また、Scope3においては排出量の67%以上をカバーするものでなければなりません。通常のSBTもScope3のカバー率は67%と定められていますが、通常のSBTとSBTi-FLAGで対象となるGHG排出量は異なる数値になるため、両者の67%のしきい値は別々のものになります。
FLAG排出量算定について
FLAGによるGHG排出量は、通常のGHG排出量算定と同様に「活動量」×「排出係数」によって算定することができます。
FLAGのGHG排出量を算定する際には活動量のトレーサビリティをできる限り詳細に把握する必要があり、生産エリアをできるだけ詳細に特定することが理想です。難易度は高くなりますが、その分精度も高くなります。
また、FLAGによる排出量は、3つのカテゴリーから成り立っています。
一番目は土地利用の変化による排出量で、森林破壊や森林劣化などを指します。二番目は土地の管理による排出量で、腸管からの排出や農業廃棄物の焼却などが該当します。三番目はカーボン除去&貯蔵で、森林の回復などが挙げられます。
SBTi-FLAG目標設定のアプローチ
SBTi-FLAGは通常のSBTの補完的な役割となっており、土地関連以外のすべての排出物を対象とする既存のSBTi方法論に加えて、すべての土地関連排出物を対象とする新しいSBTi-FLAG方法論を使用します。この目標設定のアプローチには①多様な商品を扱う需要側企業向けのセクターアプローチと②農作物などを生産している供給側企業向けコモディティアプローチの2種類があり、企業の状況などによって異なります。
まとめ
これまで考慮されていなかった森林・土地・農業セクター(FLAGセクター)の目標設定手法がSBTiより示され、該当する企業はFLAGによるGHG排出量について算出し、目標設定が義務付けられました。
FLAGによるGHG排出量の算定方法は基本的に、Scope算定と同様に活動量×排出係数によって求められるが、活動量のゆりかご段階におけるトレーサビリティの向上やカーボン除去&貯蔵の算定など、Scope算定とは異なる部分があり、留意が必要です。
SBTi-FLAGの目標設定のアプローチとして、セクターアプローチとコモディティアプローチがあり、企業の状況にあったアプローチの方法が求められています。
さいごに
企業がSBTi-FLAGの目標に取り組むことは、持続可能な未来を築く上で重要な役割を果たし、地球全体の繁栄に貢献します。「SBTi-FLAGの取り組み一つだけでは持続可能な未来に向けては小さな取り組みかもしれません。しかし、可能な範囲で一歩ずつ踏み出していくことは社会にとっても、自社の持続可能なビジネスモデルを確立していくうえでも非常に重要です。」(本田さん)。
八千代エンジニヤリングは、未来を想うすべての人に誠実に向き合い続け、社会課題を解決する新しい解を生み出すことをビジョンとして掲げています。今後も皆さまのお役に立てるようなセミナーやイベントを開催するほか、サステナビリティへの取り組みの実装をサポートしてまいります。
また、セミナーではたくさんの質問をお寄せいただきました。一部ですがサステナビリティNaviのホームページにQ&Aを掲載していますので、ぜひご覧ください。
<講演者概要>
官公庁を対象に、一般廃棄物処理計画などの計画策定支援や廃棄物処理施設の計画・設計などの廃棄物分野のコンサルティングに従事。現在は、SBT認証支援やFLAG算定支援などのサステナビリティコンサルタント業務に従事している。