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ブルーカーボンとは ?~ブルーカーボンのメカニズムや注目されている理由を解説~

こんにちは!note編集部の藤井です。
わが国においてカーボンニュートラルを達成するためには、「CO₂削減」に加えて「CO₂吸収・固定(※)」の取り組みも併せて推進していくことが必要です。森林保全や植林により「CO₂吸収・固定」がなされることの認知度は高く、国内外で数多くのプロジェクトが行われていますが、海域(藻場、マングローブなど)でも同様の効果が見込まれることは、まだあまり知られていません。
今回は、海の生態系を活用したCO₂吸収・固定(=ブルーカーボン)のメカニズムや、近年急速に注目されるようになった理由などについて、ブルーカーボン分野の専門家である吉原さんにお話いただきました。

※CO₂吸収・固定とは、空気中のCO₂を無害な物質に変えたり、吸収したCO₂を別の方法で地中に閉じ込めたりする技術を指します。


プロフィール

吉原さん(ブルーカーボン分野の担当)
業務内容:地球温暖化対策のうち特にブルーカーボン分野の事業化検討・
     コンサルティング
経  歴:1997年4月 八千代エンジニヤリング 入社 環境計画部配属
     地球温暖化対策・適応分野、環境経済評価などを担当
 

1.海洋生態系により吸収・固定される炭素(=ブルーカーボン)

ブルーカーボンとは、「海洋生物によって大気中のCO₂が取り込まれ、海草・海藻、干潟などの塩性湿地、マングローブなどの海洋生態系内に吸収・固定された炭素」のことであり、グリーンカーボン(森林によるCO₂吸収・固定)の対語として、2009年(平成21)年に国連環境計画(UNEP)によって命名されました。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の2021年の報告によると、なんと、ブルーカーボンは、グリーンカーボン(19 億t-C/年程度)の約1.5倍となる25 億t-C/年程度であるとされています。
さらに海藻藻場、干潟、サンゴ礁、内湾域も含めた「浅海域」におけるCO₂吸収量に関する最新の研究例では、知見やデータの制約上ばらつきが大きく不確実性が高いものの、グリーンカーボンの半分以上に相当する11億t-C/年程度と推定されています。

出典:「Jブルークレジット®認証申請の手引き Ver.2.2.1 」(R5.3)

図1 全世界におけるグリーンカーボンとブルーカーボンの炭素循環


2.ブルーカーボンのメカニズム

グリーンカーボン(森林によるCO₂吸収・固定)は、光合成により吸収したCO₂が、「①自身(植物)の体内(幹、枝葉、根など)」のほか「② 落葉や根、倒木として土壌中」に蓄積します。
一方、ブルーカーボンは、海草・海藻などの光合成により吸収したCO₂が、「① 草藻体由来の有機物として海底土壌、深海」に蓄積するほか、「② 草藻体から放出された難分解性の溶存有機物として海水中」にも蓄積することが大きな特徴となっています〈言い換えると、海草・海藻などが生育する場所(オンサイト)だけでなく、深海など生育地以外の場所(オフサイト)にも蓄積することになります」〉。さらにその持続期間は「数百~数千年」にものぼるといわれており、樹木の寿命である80年程度しか持続しないグリーンカーボンとは大きな違いがあります。


図2 ブルーカーボンの炭素貯留メカニズム
資料:「Jブルークレジット®認証申請の手引き Ver.2.2.1 」(R5.3)を元に作成


3.ブルーカーボンはなぜ注目されているのか?
 

【理由①】
再生可能エネルギーを導入し続けてもCO₂排出量ゼロにはならない
⇒2050年カーボンニュートラル達成のためには、CO₂吸収源対策が必要不可欠

カーボンニュートラルとは、「CO₂をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」であり、再生可能エネルギーの導入や省エネの推進などによる「CO₂削減」と、植林などの森林管理・藻場再生などによる「CO₂吸収」を合わせて進めていくことが必要です。
太陽光発電や木質バイオマス発電などの再生可能エネルギーや電気自動車を導入し続けてもCO₂排出量は完全にゼロにはならないため、カーボンニュートラル達成のためにはCO₂吸収源対策であるグリーンカーボンやブルーカーボンに関する取り組みが必要不可欠となります。

図3 カーボンニュートラルとは


【理由②】CO₂吸収量は陸域(グリーンカーボン)よりも海域(ブルーカーボン)のほうが多い。

先に示した図1のとおりです。


【理由③】
ブルーカーボン生態系のうちの一つである藻場は、地球上の生態系の中でトップクラスの経済価値を生み出している。

人間の生活は食料や水、気候の安定など、多様な生物が関わりあう「生態系」から得られる様々な恵み=生態系サービスによって支えられています。沿岸域生態系や森林生態系は、先に示したとおりCO₂の吸収のみならず、水質浄化や生物多様性の維持、食料供給、環境教育・レクリエーションの場などさまざまな機能を同時に発揮する場となっています。
これらの「多機能性の発揮=生態系サービス」の価値評価を行った研究結果は下図のとおりであり、ブルーカーボン生態系のうちの一つである藻場は、河口域のそれと並んで、地球上の生態系の中でトップクラスの経済価値を生み出すと推定されています。


出典:https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/kadai/syuryo_report/pdf/RF0907-1.pdf
図4 地球上のさまざまな生態系が生み出す生態系サービスの経済価値の比較

【参考】 生態系サービスの分類

出典:https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/service.html

【理由④】
日本は海岸線延長世界第6位 
⇒国土面積に対しブルーカーボン生態系の分布域が大きい

海岸線延長の国別ランキングは以下のとおりであり、日本は世界第6位(29,751km)となっています。国土面積に対しブルーカーボン生態系の分布域が大きい特徴を持つ日本は、世界的にも主要なブルーカーボン貯蔵国である可能性が高く、カーボンニュートラルの達成に向けた有効かつ新たな対策として、近年注目が高まっています。

出典:https://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary03#
図5 海岸線延長の世界上位20ヶ国


4.さいごに

私は13年前からブルーカーボンの事業化に関する技術的支援を行っており、そのなかでも特にカーボン・オフセットの推進に力を入れて取り組んできました。
このブルーカーボンを活用したカーボン・オフセットについては、国内では横浜市独自の取り組みとして始まりましたが、その後福岡市でも同様な活動が進められ、2021年度(令和3年度)からはJブルークレジットという全国的な取り組みにまで広がってきています。
次回はこの「Jブルークレジット」の仕組みや特徴などについて、全国での具体的な事例とともにご紹介したいと思います。