廃棄物管理からサーキュラーエコノミー(循環型経済)へ~日本の環境政策の進化について解説~
こんにちは!note編集部の藤井です。
前回、サーキュラーエコノミー(循環型経済)分野の専門家である柴田さんに、サーキュラーエコノミーについての解説していただきました。
「サーキュラーエコノミーとは ~サーキュラーエコノミー(循環型経済)の?(ハテナ)を深掘り~」はこちらからご覧ください
第2弾となる今回は、柴田さんにサーキュラーエコノミー政策の変遷について解説いただきました。
プロフィール
柴田さん(サーキュラーエコノミー分野の担当)
業務内容:サーキュラーエコノミー分野の事業検討・開発
経 歴:2007~2021年 グローバル企業 環境部署の責任者として従事
2021年9月 八千代エンジニヤリング入社
2023年7月 開発推進部配属
サーキュラーエコノミー分野の事業検討・開発を担当
1.最終処分場のひっ迫
1990年代の環境課題の一つが、廃棄物の最終処分場ひっ迫問題でした。最終処分場があと数年で満杯になり、廃棄物を持って行く先が無くなるかもしれない、という課題でした。そのため、最終処分場の新設が計画されましたが、その一部は反対運動でとん挫します。有名なものとして、名古屋市の藤前干潟があります。藤前干潟を埋め立てて処分場とする計画でしたが、貴重な干潟を守るための運動により、計画は中止となります。
新設が進まない以上、最終処分場に持ち込まれる廃棄物を減らすしかありません。そこで、リサイクルの必要性が一気に高まります。
2.大量リサイクル時代の到来
政府は1999年7月に「循環経済ビジョン」を策定、翌2000年6月には「循環型社会形成推進基本法」を施行します。いずれも3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進が謳われています。狙いとしては、まずは廃棄物などの発生抑制(リデュース)でしたが、実態としては大量リサイクル時代が始まります。ただし、大量に発生する廃棄物などがリサイクルに回るようになりましたので、最終処分場に回る量は減っていきました。
3.大量リサイクルからサーキュラーエコノミー(循環型経済)へ
時代の変遷とともに、大量生産⇒大量廃棄⇒大量リサイクル、の課題が顕著になってきます。
(1)欧州の動向
2015年、EUの欧州委員会はアクションプランから成る「サーキュラーエコノミー・パッケージ」を採択しました。単なる廃棄物政策としてではなく、国際競争力の強化など、経済政策として打ち出しています。以降、2018年「欧州プラスチック戦略」、2019年の「欧州グリーンディール」、2020年の「新サーキュラーエコノミー・アクションプラン」など、サーキュラーエコノミーに関連する施策を矢継ぎ早に出してきます。
(2)リサイクルの海外依存リスク
廃棄物の海外輸出はバーゼル条約により厳しく規制されていますが、「資源」として不要物が輸出されていました。日本の大量リサイクルの一部は海外に依存していたのですが、2019年、中国が廃プラスチック類の輸入を禁止したことなどにより、国内での処理が必要となりました。一方で、処理能力は急には増えませんので、リサイクルに拠らない仕組みの必要性が高まりました。
また、レアメタルなど重要鉱物を特定の国に依存するリスクから、特に重要鉱物については国内リサイクルの必要性が高まっています。
(3)脱炭素
欧州の各種政策も同様ですが、脱炭素の文脈において、サーキュラーエコノミーの必要性が語られるようになってきます。2021年10月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」において、サーキュラーエコノミーへの移行が謳われました。一部を抜粋します。
ただし、サーキュラーエコノミーの座組によっては、温室効果ガスがむしろ増えてしまうことがありますので注意が必要です。筆者が所属した飲料業界において、かつてはペットボトルのリユース導入を求める声がありました。環境省の研究会で工場と市場が100キロ圏内で完結しないとむしろ環境負荷が高まることが明らかになり、以降、リユースを求める声は静まりました(環境省「ペットボトルを始めとした容器包装のリユース・デポジットなどの循環的な利用に関する研究会」中間取りまとめ2009年8月)。
4.サーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進
2018年6月に閣議決定された「第四次循環型社会形成推進基本計画」において、環境的側面だけでなく、経済的側面や社会的側面を含めて統合的に向上させていくことが謳われました。
経産省は1999年に策定した「循環経済ビジョン」の後継版として「循環経済ビジョン2020」を2020年5月に、2023年3月には「成長志向型の資源自立経済戦略」を公表しています。
環境省は2022年9月に「循環経済工程表」を策定。2050年に向けた方向性や、プラスチックやバイオマスなどの素材ごと、建築物や自動車など製品ごとにもそれぞれの方向性を掲げています。
経産省、環境省、いずれも、サーキュラーエコノミーの推進を強く打ち出しています。環境負荷低減ではなく、国の競争力強化の戦略となっています。個々には課題山積ですが、大きな方向性を捉え、ビジネスモデルをサーキュラーエコノミーに転換していくことが必要ではないでしょうか。