Jブルークレジットによるカーボンニュートラルへの道~「Jブルークレジット」の仕組みや認証実績・活用事例について解説~
こんにちは!note編集部の藤井です。
前回は、ブルーカーボンの概念や炭素貯留のメカニズム、近年注目されている理由などについてブルーカーボン分野の専門家である吉原さんにお話しいただきましたが、今回はこのブルーカーボンを活用したカーボン・オフセットについて、2020年度(令和2年度)から開始された国内制度である「Jブルークレジット」の仕組みや特徴などを、全国での具体的な事例とともにご紹介していただきました。
前回の記事はこちらからご確認ください。
プロフィール
吉原さん(ブルーカーボン分野の担当)
業務内容:地球温暖化対策のうち特にブルーカーボン分野の事業化検討・
コンサルティング
経 歴:1997年4月 八千代エンジニヤリング 入社 環境計画部配属
地球温暖化対策・適応分野、環境経済評価などを担当
1. カーボン・オフセットとJブルークレジット®
2050年におけるカーボンニュートラル達成のためには、自治体、企業、市民などがそれぞれできる限りCO2排出を減らす努力が必要です。また同時にCO₂吸収源対策であるグリーンカーボン(森林保全や植林など)やブルーカーボン(藻場干潟の維持・再生など)に関する取り組みが必要であることは前回「3章ブルーカーボンはなぜ注目されているのか?の理由①」でお話したとおりです。
しかしながら、自身ではどうしてもゼロにできない排出量については、他の場所で行われたCO2削減・吸収量の価値(=カーボン・クレジット)を購入することによって埋め合わせる(=カーボン・オフセット)ことにより調整(=間接的に削減)することが可能です。
ブルーカーボンを定量化して取引可能なクレジットにしたものがJブルークレジットです。このJブルークレジットを認証・発行し、カーボン・オフセットとして取引するブルーカーボン・クレジット制度(Jブルークレジット®)が2020年度(令和2年度)よりスタートしました。
Jブルークレジットを活用することで、クレジットの申請者はクレジット売却による活動資金の調達ができるほか、活動の認知度の向上により活動の活性化が見込めること、またクレジット購入者はCO2削減のほか温暖化対策活動の開示ができるなど、双方にとって Win-Winとなる環境と経済の好循環を生み出す仕組みとなっています。
2. Jブルークレジット®の認証実績
開始初年度である2020年度(令和2年度)において、22.8(t-CO2)【1サイト、10.6ha】であった認証量は、2年後の2022年度(令和4年度)では約160倍の3733.1(t-CO2)【21サイト、1100.4ha】まで増加しています。
取り組みが行われている認証サイトは、瀬戸内海沿岸域が多く、次いで九州・中部地方となっており、北海道・東北地方(1件ずつ)のほか日本海側の地域は全体的に少なめの傾向となっています。
ブルーカーボン生態系である藻場・干潟の再生の取り組みについては、漁業者や行政、NPOなどの皆さまによって日本全国で古くから行われていますので、今後、全国から多くの申請がなされることが期待されます。
ここで特筆すべき点は、取引単価の高さです。
図2に示すとおり、Jブルークレジット®の取引価格は、試行的な意味合いが強かった初年度(2020年度)を除くと、約70,000円/t-CO2となっており、既存の国の制度であるJ-クレジット制度での取引価格(再エネ・省エネの取り組みにより認証されたクレジット:1,000~2,000円/t-CO2、森林整備や植林等により認証されたクレジット:3,000~10,000円/t-CO2)と比べると、なんと「7~70倍の価格」となっています。
この価格に違いについては様々な要因があるとされており、不明な点も多いのですが、前回「3章ブルーカーボンはなぜ注目されているのか?の理由③」で報告したとおり、藻場を始めとするブルーカーボン生態系は、「CO2の吸収のみならず、水質浄化や生物多様性の維持、食料供給、環境教育・レクリエーションの場などさまざまな機能を同時に発揮する場」となっており、この価値を十分に理解した上で購入する企業や団体が増えていることが大きな理由の一つであると言われています。
また「地域の海域環境が保全・創出されることにより、温暖化対策のみならず地域活性にも繋がる」ことから、活動が行われている地元企業がJブルークレジット®を購入する例が非常に多いのも特徴となっています。
3. Jブルークレジット®の認証・活用事例
次に、実際のJブルークレジット®の認証・活用事例をもとに本制度の仕組みや特徴などを見ていきましょう。ここでは当社が今年度(2023年度 第1回公募)に購入した「五島市藻場を活用したカーボンニュートラル促進事業」の事例をご紹介します。
(1)Jブルークレジット®の申請内容(長崎県五島市の事例)
図3に示したとおり、五島市の沿岸域で問題となっている「磯焼け」(=海藻類が何らかの原因でなくなってしまう現象のこと。海の砂漠化とも言われる。)への対策として、地元の漁業協同組合や漁業者、自治体や企業などが所属する「五島市ブルーカーボン促進協議会」が取り組むプロジェクトです。
この取り組みを進めることにより、豊かな五島の海を取り戻し、①水産資源の維持・増大、②漁業振興・雇用拡大などを図ることを目指しています。
このプロジェクトで認証されたクレジット量は、12.1(t-CO2)【令和4年度】であり、当社を含む3企業が購入しました。Jブルークレジットで得た資金は、五島市での更なる藻場再生活動に活用され、持続的な保全活動の実施や、カーボンニュートラルな社会の実現に貢献するものとなっています。
またこの取り組みは、テレビや新聞等のwebでの記事などに多く取り上げられ、企業版ふるさと納税の寄付も集まるなど、取り組みの認知度向上による更なる活性化が図られています。
(2)Jブルークレジット®の活用例(令和5年度第1回購入申込者公募の例)
上記の五島市プロジェクトにより令和4年度に認証されたクレジットは、令和5年度の第1回購入申込者公募において、表1に示すとおり、八千代エンジニヤリング株式会社、住友大阪セメント株式会社、株式会社NTTドコモの3社が購入しました。これらの3社はいずれも2050年カーボンニュートラルを表明している企業であり、Jブルークレジットを活用してカーボンニュートラル達成に向けた各種取り組みを推進しています。
表1 Jブルークレジットの購入企業・団体の例(令和5年度第1回公募の結果)
4. さいごに
Jブルークレジットの活用によって、クレジットの申請者(藻場再生などの活動者)はクレジットの売却益の活用、活動の認知度の向上により活動の活性化が図れること、またクレジット購入者のカーボンニュートラル達成に寄与することにより、双方Win-Winでかつ環境と経済の好循環を生み出すことがおわかりいただけたかと思います。
私はコンサルタントとして、全国各地でのJブルークレジットの取得・活用に関する支援を行うことにより、地球温暖化対策のほか、生物多様性保全、水質浄化、食料供給、環境教育・レクリエーションの場の提供など多機能を発揮させ、地域の活性化やSDGsの達成につなげられるよう尽力していきたいと思います。
次回はこの「Jブルークレジット」の申請や認証の流れや留意事項、現状における課題などについて、具体的な事例とともにご紹介します。