サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは ~サーキュラーエコノミーの?(ハテナ)を深掘り~
こんにちは!note編集部の藤井です。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)について、すでに他サイトや書籍、講演などでなんらかの知識をお持ちの方が多いのではないでしょうか。あるいは、サーキュラーエコノミーについて調べようと、検索して初めてヒットした情報が本記事かもしれません。
ネット上では、サーキュラーエコノミーについて解説しているサイトがたくさん存在します。
今回は、サーキュラーエコノミー分野の専門家である柴田さんにそれらの解説や、柴田さんが環境経営を実践する中で感じた?(ハテナ)について、環境経営での経験から見出した視点も踏まえて深掘りしていただきました。
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プロフィール
柴田さん(サーキュラーエコノミー分野の担当)
業務内容:サーキュラーエコノミー分野の事業検討・開発
経 歴:2007~2021年 グローバル企業 環境部署の責任者として従事
2021年9月 八千代エンジニヤリング入社
2023年7月 開発推進部配属
サーキュラーエコノミー分野の事業検討・開発を担当
1.サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは? 解説の3本柱
サーキュラーエコノミーについての解説では、多くの場合、次の3つが紹介されています。
●定義・目的
● Linear EconomyとCircular Economy
● リサイクルとの違い
それぞれの内容について、既にご存じの方も多いかと思いますが、改めて確認しておきます。
(1) 定義・目的
サーキュラーエコノミーの定義について、世界共通の唯一の定義は存在しません。世界共通の定義になり得るものとしては、ISOでの用語の定義が考えられます。サーキュラーエコノミーについては、2024年の規格化に向けてISOで議論がなされている真っ最中になりますので、もうしばらく待つ必要があります。ここでは、サーキュラーエコノミーの先進地域であるEU、サーキュラーエコノミーを推進するNPOであるエレンマッカーシー財団、それから日本の経産省、環境省での定義あるいは目的について整理いたします。
一般にみられる解説としては、理解を容易にするためでしょうか、エレンマッカーシー財団の記載にもみられる「廃棄物を出さない」を謳うものが多いようです。この点は、とても重要なことですので後述いたします。
①EU
EUの政策執行機関である欧州委員会のホームページで、サーキュラーエコノミーの目的として以下のように記載されています。英語原文と、私による日本語訳を併記いたします。
上記に加え、サーキュラーエコノミーは、水や土地の利用へのプレッシャーの緩和、カーボンニュートラルなどの環境面での貢献、雇用やバリューチェーンの強化など経済面での貢献が謳われています。
② エレン・マッカーサー財団
ここでも、ホームページでの英語原文と、私による日本語訳を記載いたします。
③経産省・環境省
それぞれ、以下の記載があります。
(2)Linear EconomyとCircular Economy
サーキュラーエコノミーが新しい概念であることの説明として、以下のような図を用いて説明されていることが多いようです。
一見しての違いは、「廃棄物」が「リサイクル」に置き換わり、形が直線から円になることでしょうか。前出の、エレンマッカーシー財団におけるサーキュラーエコノミーの定義とも合致します。
(3)リサイクルとの違い
では、廃棄物になっていたものをリサイクルに回すようにできれば、サーキュラーエコノミー達成なのでしょうか?サーキュラーエコノミーの解説では、リサイクル、あるいは3Rとサーキュラーエコノミーの違いについても記載がたくさんありますが、その違いとして「サーキュラーエコノミーは廃棄物を出さないことを前提にしている」との説明が多いようです。この説明では、リサイクルとサーキュラーエコノミーの違いがむしろ分かりにくくなるのではないでしょうか。
2.サーキュラーエコノミーとは?
ここまで読んでいただいた皆さまは、ふと疑問に思われるのではないでしょうか。図1では、廃棄物がリサイクルに置き換わったことでサーキュラーエコノミーとしています。一方で、リサイクルとサーキュラーエコノミーは違う、と。
テレビや冷蔵庫を購入した際、リサイクル費用を徴収された経験をお持ちかと思います。これは、家電リサイクル法で使用済みのテレビや冷蔵庫はリサイクルが義務付けられていて、その費用が徴収されるためです。では、廃棄物とすることを前提とせず、リサイクルの仕組みが整っているテレビや冷蔵庫は、サーキュラーエコノミーの完成形なのでしょうか。
企業の環境部門の方であれば、製品の環境側面と事業活動での環境側面の両方をご担当されていると思います。製品はさておき、事業活動、例えば工場であれば、不要物(廃棄物とは呼ばず不要物とここでは称します)を廃棄物にせず、リサイクルに回すことでいわゆる“ゼロエミッション”を達成されている企業も多いかと思います。廃棄物にはなっていませんから、ゼロエミッションも、サーキュラーエコノミーの完成形なのでしょうか。
本記事をお読みの皆さまでしたら、組織の上層部や関連部署の方々にどのように説明されますでしょうか。
3.サーキュラーエコノミーを読み解く 理解を深めるために
1項に記載させていただきました、サーキュラーエコノミーの“解説3本柱”は、サーキュラーエコノミーを理解する第一歩として適切なものと思います。一方で、もう少し深く理解しようとすると、疑問がわいてくる点もあろうかと思います。サーキュラーエコノミーをもう一段深く理解するために、私の経験も踏まえ、3つの視点を記載させていただきます。
(1)視点1:マテリアルフローの枠を拡げる
製品Aと製品Bがあったとします。両方とも、使用後はリサイクルされずに廃棄物となっていたとします。マテリアルフローで表すと、図2のような感じでしょうか。
使用済みの製品Aを製品Bの原材料としてリサイクルすることにしました。図3のイメージです。製品Aの廃棄は減り、製品Bの原材料投入量も減ることになります。これはこれで、とても素晴らしいことです。
一方で、リサイクルした先のことを考えられたことはありますでしょうか。リサイクルした先では、廃棄物になっているケースは少なくありません。モノによっては、リサイクルのための処理方法にも拠りますが、未来永劫、永遠にリサイクルし続けることが難しいモノもあります。例えばプラスチックは、現在広く行われているリサイクル処理手法(メカニカルリサイクルと言います)では、リサイクルすると物性が落ちていくと言われています。また、古紙のリサイクルにおいて、「リサイクルすると繊維が弱くなる」という話をお聞きになったことがある方も多いのではないでしょうか。従来廃棄されていたものをリサイクルできるようにすることは第一歩ではありますが、資源の循環をどの枠で考えるかは、モノによって状況も違いますので、個別に最適解を求めることが必要でしょう。
(2)視点2:時間軸を拡げる
製品の寿命を、仮に1年だとします。消費者の視点に立つと、例えば3年間では図4のような感じになります。ここでは、「廃棄」を「リサイクル」に置き換えていただいても結構です。3年間で、原材料投入量は3、廃棄物(リサイクル)量も3となります。
廃棄物をなくすことはできませんが、減らす方法として、製品の「長寿命化」が考えられます。仮に製品寿命を3年に延ばすことができれば、原材料投入量は1、廃棄物(リサイクル)量も1になります。
製品を使用していて、特定の機能だけが故障したために買い替えたご経験がある方は多いのではないでしょうか。修理するより、新製品を購入した方が安上がりだったりします。一方、サーキュラーエコノミーでは、製品の長寿命化のために、修理したり、パーツを交換することが有用となってきます。
いずれにしろ、原材料投入量、廃棄物(リサイクル)量いずれもゼロにはなりませんが、大きく削減されます。
しかし、ここで、新たな疑問がわいてきた方もいらっしゃるのではないでしょうか。「サーキュラーエコノミーでは、我が社の売上が減ってしまうのではないか?」と。
(3)ビジネスモデルを拡げる
「サーキュラーエコノミーでは、我が社の売上が減ってしまうのではないか?」との疑問に対する回答としては、「従来型のビジネスモデルのままでは売上が減る可能性が高い」となるのではないでしょうか。そもそもサーキュラーエコノミーという概念が生まれて普及している背景は、従来の経済システムが行き詰まりをみせているからに他なりません。1項に記載した経産省、環境省ともにサーキュラーエコノミーを「社会経済システム」「経済活動全体の在り方」と定義付けているのが分かりやすい証左かと思います。そのため、ビジネスモデルにまで踏み込んでいくことが必要となってきます。この点が、廃棄物をリサイクルするだけの取り組みとは根本的に異なる点になります。
従来のビジネスモデルに拘ってみても、他社がビジネスモデルを変えてきます。読者の皆さまも、メルカリなどを利用する機会は多いのではないでしょうか。メルカリなどの登場により、モノの生産量は減ってきているはずです。スタートアップ、既存企業問わず、国内外でサーキュラーエコノミーの視点でビジネスモデルを拡げる、変革する事例は多数出てきております(事例の紹介はまた別の機会で記載したいと思います)。
私はグローバル企業の環境部署に14年在籍しました。新しい環境の概念を取り入れ、ビジネスモデルや成功体験を変えていくことはとても大変でした。皆さまもその渦中にあると思います。グローバルでの環境の取り組み、特に欧州ではじまった動きが日本に伝播するには数年のタイムラグがあります。組織の中で理解を得ることは困難を極めます。だからこそ、環境部署の皆さまがいち早く組織を動かすことで、先行者利益を得ることが可能になります。本記事が少しでもそのお役に立てば幸いです。